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辺見庸 研究 ~内宇宙への旅~

辺見庸の発言は、ときに「荒れ球」や「魔球」もあるが、「剛速球」が身上である。その根源にある思考とは何か。

65.二人の「ポムチェジャ」:吉田松陰、福沢諭吉

 吉田松陰

 安政の大獄における悲劇のヒーロー、近代日本の先覚者のように受け取られているが、実は彼は、朝鮮半島やアジアへ侵略思想の創始者なのだ。

 日本という国の悲惨さは、いちじるしく知性を欠く政治家とマスメディアに支配されているにとどまるのでなく、みずからの近現代史の実相と、その朝鮮半島、中国とのかかわりの深層を、あまりにも、じつにあまりにも知らず、謙虚に知ろうともしていないことである。この国は、せいぜいよくても、司馬遼太郎ていどの近代史観しかもたない首相と政治家を、過去にも現在も、何人もいただいてきたことだ。そして日本の〈征韓論〉の歴史と淵源をまったく知らないマスコミ。そのツケがいまきている。

 大久保利通江藤新平榎本武揚福沢諭吉板垣退助、大井憲太郎、樽井籐吉、陸奥宗光勝海舟山県有朋与謝野鉄幹井上馨、三浦梧楼、伊藤博文大隈重信徳富蘇峰宇垣一成、南次郎、小磯国昭・・・らが、アジアと朝鮮半島にかんし、なにを語り、なにをしてきたかを、日本人はとっくに忘れたか、もともと知らず、朝鮮半島や中国に住まうひとびとのほうが代々、憶えているということは、これはまたどういうことなのか。

 「ポムチェジャ」とはだれのことだ?三浦梧楼はおどろくべき범죄자ではないのか。伊藤博文とはなにをなした人物か。なぜそれを調べてみようとしないのか。

 辺見庸「私事片々」(2013年11月20日) 註:「ポムチェジャ」(범죄자、犯罪者)

 明治維新の「立役者」たちを育てた吉田松陰明治維新の精神的指導者、理論家、倒幕論者、兵学者。何よりも封建制打破の情熱と行動力に多くの「日本人」が魅せられてきた。

 ところがこの松陰、とんでもない罪業の持ち主であり、新国家・富国建設という「大義幻想」ために侵略思想を捏ね上げた張本人なのだ。

 松陰の著した『幽囚録』『獄是帖』『丙辰幽室文稿』を読めば、そのことは一目瞭然だ。(「朝鮮を取り、満州をくじき、支那を圧し、印度に臨み、以って進取の勢を張り」等の記述をみよ)。

 また、彼の句が問題だ。

「身はたとひ 武蔵の野辺に 朽ちぬとも 留め置かまし 大和魂

「かくすれば かくなるものと知りながら やむにやまれぬ大和魂

 アジア各国を侵略し何千万人を殺戮。それを推し進めるのが、ふつふつと湧き出る熱き大和魂であると謳う。

  安倍首相がもっとも尊敬する人物は、この同郷の吉田松陰だと公言しているのだからあきれものが言えない。

  福沢諭吉もまた、とんでもない男だ。

 福沢諭吉は『学問のすゝめ』を書き近代日本の礎をきづいた偉人の一人としてあげられている。「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずと云えり」と福沢諭吉は言った。米国の独立宣言から示唆を得た言葉らしいが、これには大きな誤りがある。

 わがジャパンは人の上に人を造っているではないか。天皇という存在は「人の上の人」ではないのか、と内村剛介は怒る。

 戦後、最大の戦争犯罪者にもかかわらずヒロヒトは「人間宣言」とやらをして象徴になった。世襲によって地位を得たアキヒトも住民登録せず、納税義務をはたしていないし、選挙権もなく「一族郎党」とともに国民のうえでのうのうと暮らしている。国会の最上段に座ったりもしている。

 学問を熱心にすれば人びとは平等になれるなんて幻想である。学問を受ける権利の実現の前に不平等と多くの困難が立ちふさがっているではないか。