B-22 空費だ、世界なんて
そこにさりげなく組み込まれている至言。
「ひとのやることのほとんどは、だれかのまねなんだってさ。(中略)にんげんのやることのほとんどがじぶんだけのオリジナルでなければならないとしたら、大混乱だよな」
「戦争においては、現実を覆っていたことばとイメージが、現実によって引き裂かれてしまい、現実がその裸形の冷酷さにおいて迫ってくることになる。〈エマニエル・レヴィス::引用者註〉」
「ありうる。なんだってありうる。理由だけがない」
「どうせ、すべてはむだな情熱にすぎない。空費だ。世界なんて、せいぜいそんなもんじゃないの。なのに、あたしはどうして世界なんてことを思うのだろうか。世界なるものが、これまでいちどだって罪をつぐなったことがあるだろうか……」
脳出血の後遺症が十年以上経っても辺見庸を襲い続け、「痛くないというのはとてもだいじなことかもしれない」と、辺見は呻く。幻想小説「月」はそのようななかで書き綴られている。