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辺見庸 研究 ~内宇宙への旅~

辺見庸の発言は、ときに「荒れ球」や「魔球」もあるが、「剛速球」が身上である。その根源にある思考とは何か。

79.逸見庸:内宇宙への回路

創造的な破壊は否定的破壊であり、現実(構造)を是認したうえでの破壊ではない。批判は現実およびその基礎の構造に対しなされるものである。そして、思想は批判と不可分で、思想は批判そのものであるともいえる 。そのことからすれば、辺見庸の批判はまさに…

78.「誠実」をめぐる虚実

辺見庸はおもに二つの著作のなかで「誠実」について述べている。玄妙な詩、技巧的で晦渋な表現を組み込んだ鋭い批評や、衒いながらの小説、それらとは逆に、譫言や自らの「痴態」をときに記してきたブログ「私事片々」からは一見程遠い「誠実」ではあるが、…

77.シベリアと香月泰男(その2)

辺見庸による香月泰男の絵(「1945」)についての視角は前述したが、評論家・ロシア文学者である内村剛介は香月の絵のことを次のように述べている。内村も敗戦とともにソ連に抑留され、11年間をソ連内の監獄・ラーゲリで過ごし、1956年末、最後の帰還船で帰…

76.シベリアと香月泰男(その1)

香月泰男は1943年に応召、満州に送られ、敗戦後シベリアに俘虜として抑留されたのち帰還した。その間、約4年であった。 辺見庸が、香月について記しているのは全著作の中で次の箇所だけである。 画家の香月泰男(一九二〜七四年)はかつて「1945」と題す…

75.辺見庸「父を問う」(NHKの番組)について(その2)

辺見庸の母がポツリと、「あのひとはすっかり変わってかえってきた。化け物のように変わって」・・・そのような口吻で復員してきた夫について呟いたと、辺見は『1★9★3★7』で記している。 この記述から、敗戦で帰還した辺見の父の心の葛藤、荒みの一端が…

74.辺見庸「父を問う」(NHKの番組)について(その1)

辺見庸の印象 無精ひげ、右半身のマヒ、右目の視力低下、口の乾き、不如意に右唇から唾液が出るのを何度かぬぐう等、大病の後遺症や72歳の高齢を感じさせた。ただし、話の内容は示唆に富むものであった。 愛犬とともに出演。(家族が家を出てから久しく、独…

73.辺見庸:TV出演(3月12日)への視角

辺見庸が、病をおして近々NHK教育テレビに出演する(2017年3月12日:再放送3月18日)。テーマは 「父を問うーいまと未来を知るために」。 彼は、亡父をどのように語るのであろうか?NHKはこの時期、どのような番組作り・編集をする(できる)のだろうか? …

72.洞察の分水嶺(その3)

辺見庸は虚偽や衒いなどについてこんなことを語っている。 人間の問いと応答は、そのなかに千態万様の(問いじたい、応答じたいの)虚偽や衒いプレやズレ、多少の演技をふくみもつものであろうし、それはそのまま人間存在の「根」そのものの危うさと妖しさに…

71.洞察の分水嶺(その2)

辺見庸が記した「永山則夫の処刑」に比べ、評論家・近藤洋太の記述は上滑りしている。 彼は、死刑囚の永山則夫にたいする小山俊一の姿勢に疑問をもち、それを投げかけている。 たんに生きること(考えること)を放棄しようとしているだけの死刑囚になぜ「驚…

70.洞察の分水嶺(その1)

評論家の近藤洋太は、小山俊一の思索の書である『EX-POST通信』の一節についてこんなふうに書いている。 「私は彼の反国家的・反社会的な言説に必ずしも賛成ではない。たとえば、「EX-POST通信」No. 4の次の一説などがそうだ。」 (……私たち生き残った戦争…

69.イメージが論理を駆逐する

辺見庸は、メディア状況のなかで、「私が最も耳をそばだてているのは、ジヤーナリズム論では、レジス・ドゥブレである」と言っている。 そのフランスの思想家レジス・ドゥブレは、「世界を人間の意思の力で変えようとする運動は、活版印刷の終焉とともに幕を…

68.辺見庸の謬漏

「品行の問題(自己否定による個の深化不徹底)」と「突き抜けられなかった」ことは、辺見庸にとって個のフレイジル(fragile)な面としてあらわれている。前項ではそのことについて述べた。 加えて、これもすでに指摘してきたところであるが、彼の思考の基…

67.辺見庸:感覚の最深部

透徹した思索者の一人として、辺見庸は、現行憲法の改定に断固反対し、天皇ヒロヒトの戦争犯罪を厳しく指弾する。また、このままではファシズムの危険および人類滅亡が必至であると警告している。さらに、いかなる場合でも(たとえ南京虐殺の首謀者であって…

66.辺見庸における「延性破壊」

最近、辺見庸は「延性破壊」を自己の内的世界に起こしつつあるようにみえる(延性破壊とは塑性変形を起こし、材料の著しい伸びや絞りを伴う破壊のことをいう)。 かつて辺見庸は、吉本隆明や埴谷雄高の晩年の変質を嘆き、批判していた。しかし、辺見の変質の…

65.二人の「ポムチェジャ」:吉田松陰、福沢諭吉

吉田松陰 安政の大獄における悲劇のヒーロー、近代日本の先覚者のように受け取られているが、実は彼は、朝鮮半島やアジアへ侵略思想の創始者なのだ。 日本という国の悲惨さは、いちじるしく知性を欠く政治家とマスメディアに支配されているにとどまるのでな…

64.スポーツ振興の光と影

スポーツが法律問題として大きく社会問題として取り上げられるようになった。そんな折、知人の弁護士が『〝平和学〝としてのスポーツ法入門』という本を出した。「スポーツ法」のことや「スポーツの平和創造機能」について述べられている。 スポーツの「功罪…

63.ファシズムの快と自省

辺見庸は述べる。 何度もくりかえしますが、ファシズムというのは、けっしてでたらめなやつだけがやっていたわけではないのです。ファシズムにはファシズムなりのある種のロマンというものがあった そのことを忘れないようにしたいとぼくはおもうのです。「…

62.トランプ、COP21への裏切り

マスメディアは、米国の「移民、難民の受け入れ拒否」や「反グローバリズム(貿易、経済、金融)」を報じている。 トランプ大統領は、目先の利益と利己を求める大衆にすり寄り(または体現し)、失われた「米国ロマン」の復権を訴えている。まさにヒトラーの…

61.「不条理な」苦痛

今日の世界情勢として政治の右傾化、排外主義の台頭がある。それは「トランプ現象」に顕著に表れているのだが、日本にも当てはまることである。 逸見庸は『いま、抗暴のときに』で、次のような主旨のことを述べている。十数年も前のことだ。 ドブレは前掲書…

60.ロマンチシズムの力

「ぼくらの年になると、とにかく無事に暮らせればいい、という気持ちが片方にあって、そういう気持ちを引っぱって行くだけの力は、ロマンチシズムにはないんですよ。だからどうしても破壊ということになっちゃう。」(五木寛之との対談で)。 武田泰淳『武田泰…

59.反照者たち

憧れの感情は心に一条の光となって生きる動力となる。それはロールモデルの底辺にも存在する。憧れの対象に向かって投げかける光線は穏やかだ。 それに反して自己が投げかけた光線が衝撃の反照となることがある。それは自己の根底を照らす光の束であり、心の…

58.十字架

石原吉郎はふつうに生きることを否定した。生きていることがむしろ不正常だという考え方が、経験的にも彼にはあった。石原という非生産的でネガティブな人、あらかじめ緩慢な自死を定められてきた人―。知る限りで何人か思い浮かぶけれど、たとえば尾形亀之助…

57.講演会(1月30日)のこと

辺見庸の右目が見えなくなった、体を激痛が走る、「エベレスト」にも最近は登っていない、という。右目は手術しなければならず入院は7日ほど。左目も問題ありとのことだ。 今年の1月7日からのブログ「私事片々」は2017年1月23日でいったん途切れ、その後、再…

56.賛意、同感の表明

辺見庸の批判は身体を賭けた批判であり「剛速球」であるが、一方では、賛意を表し、または高く評価している人や作品はある。これにより辺見庸の思考の骨組みが見えてくる。 辺見庸が自分の著作の中で、一定以上の字数または言及する頻度(表現された語に込め…

55.辺見庸氏の著作(本文)のなかで出てきた作品(その2)

辺見庸氏の著作のなかで出てきた作品(一部、辺見庸氏との対談での中での作品あり)。映画、音楽、演劇、絵画、写真など(下記以外に未記載の作品があればお許しください)。 映画 ・エミール・クストリッツァ(監督) 『アンダーグラウンド』 『パパは、出張…

54.辺見庸氏の著作(本文)の中で出てきた作品(その1)

資料1 * 辺見庸氏の著作の本文の中で出てきた作品(辺見庸氏以外の著者の著作物)は次記のとおりです。 *一部を除き基本的に辺見庸氏の著作(本文)において書名が記されたものを掲げ、それらの表記形式は、基本的には記載通りの形式にしています。 * 本…

53.単独者としての行動

被害者であり、かつ加害者である人間は、いかに実存者・単独者になりえるか。自由な存在への足場を得られるのか。辺見の思考に大きな影響を及ぼした石原吉郎、その石原を驚愕させた鹿野武一とは。 シベリアの強制収容所での鹿野の異様な行動に、その鍵を見出…

52.破局 滅亡

歴史が、突如、激しい痙攣を起こした。それを前にしては、いかなる作家や哲学者の、どのような表現も、凡庸のそしりをまぬがれないほど、光景は、突出し、ねじれ、熱し、歪み、滾り、かつ黙示的でもあった。痙攣は、局所性のものか、それとも全身性のものな…

51.マチエールあるいは原質的なもの

手触り感がなくなりつつある。生体に息づく生命が原質性から疎遠になっている。辺見庸はそれについて「マチエール」という語を使って述べている。 「マチエールということばを使いましたが、それは人でいえば、においとか温もりとか、冷淡さとか、あるいは抱…

50.谷川雁の暗喩

谷川雁という詩人・評論家がいた。今から50~60年前のことである。 「原点が存在する」「東京にゆくな」などのメッセージに当時の若者の一部は心を震わせたのだった。谷川は北九州の大正炭鉱で戦闘的炭鉱労働者からなる「大正行動隊」を組織し、永久工作者と…

49.辺見庸 ~こだわり、生き方、性格、好悪~

辺見庸という人はどういう人か? 彼は自ら率直に著作のなかで語っている。あくまでも自己認識なので、そのまま「実際の」人柄・性質とはいえないにしろ、また、彼が小説家・詩人であることも考慮して受け取らなければならないだろうが、別に自分に「虚飾」を…

48.性、エロス

生体としての人間にとって、食と睡眠と性は大きなウエイトを占める。それぞれについて辺見庸の作品をあげると、食については『もの喰う人びと』、睡眠については『自動起床装置』、性については『ゆで卵』『赤い橋の下のぬるい水』といったところが思い浮か…

47.企業社会と消費資本主義

日本は資本主義社会である。このことは日本が企業社会であるということとほぼ同義である。企業社会というと「大企業」が主導する経済社会と受け取られがちであるが、実態は、むしろそれより幅広く「利益追求を第一義にする」大企業をはじめとするすべての事…

46.太宰治『満願』における視点 

太宰治の作品が好まれるのは、彼の思考・嗜好と作品が強く関連しているとのイメージがあるからと思われる。また、自己の内面と外界との実時間でのありようを強く意識している。 それはさておき、辺見庸は、こんなふうに感慨を洩らしている。 私の好きな太宰…

45.ダーク.アンド・エンプティ

「ポジティブシンキング」が喧伝される。「前向きな姿勢」が勧められたり、「ネクラ」が揶揄されると、暗く沈んではいられない。苦しくなりばかりである。 心の豊饒さや希望に満ちることは稀で、仕事やくらしに充実感が得られなくなって、なんとなく空しい。…

44.民主主義の腐敗・変質

民主化は、歴史を再検証し、全体主義(国家主義)への個の闘い、一人ひとり生身の言動であることの共通認識から始まる。それでこそ腐敗・変質しない民主主義が育まれる。 骨の髄まで腐った民主主義国家」に民主主義を訴えることの無効性を感じてもいい。 対…

43.個的不服従

逆説的反抗、徹底した不服従、テロ。情報ネットワーク手段を駆使した情報戦術や言論テロもある。これらの共通点は、個的不服従者が内的宇宙を凝視し続け、記憶が確固たるものであり、服従への反発・怒りが強いことに求められる。ひたすら高揚を求め声高に連…

42.阿川弘之、三浦朱門

権力亡者、排外主義者、民族主義者、拝金主義者、競争至上(弱肉強食)主義者、国粋主義者。 これらは米国の大統領選挙で勝ったトランプのことを言っているのではない。安倍晋三のことでもない。 選民思想、加害者意識欠落、天皇崇拝、夜郎自大、レイシスト…

41.陰画としての全的滅亡

この国の先人たちは一時代前に、大東亜共栄圏の妄想のもと、アジア諸国を侵略し約2,000万人もの人を殺戮した。それ以外にも多くの人々の生活を奪い一人ひとりの安寧を侵した。このような先人たちの罪業の反省と謝罪もないまま、われわれ末裔は記憶殺しのなか…

40.コンプライアンスと新聞

テレビや新聞で発信される情報がますます空虚になっている。たとえば「手ざわり感」「実感」が少しあるテレビ番組にしても、そこに組み込まれた「商品呪縛と批判精神の骨抜き」が露骨になっている。とくに民放は骨の髄まで消費資本主義に毒され、権力にすり…

39.陰熱

「右の頬を打つ者に対しては、左の頬も向けてやるがよい(マタイ5・39)」。この新約聖書のなかの有名なせりふは、一般には、「そんな横暴な人には、反逆や報復するのではなく相手を許し愛の心でもって対処し、相手の愚かさを知らしめるのがよい」という解釈…

38.心ばえ

辺見庸は「批判ばかりしている」「重苦しく暗い」「破局とか滅亡とかいう語が多く出てきて、未来志向に欠け、希望がもてなくなる」。そんな声が一部に聞かれる。 それは率直な印象としては受容できないことではなく、全くの的外れでもない。辺見庸の鋭い感性…

37.「スィン」と「クライム」:仮説の構築 

辺見庸の「罪に関する思考」に触発されて導き出した仮説。 1.「スィン」と「クライム」の領域には次の3領域がある。 〇人間 〇国家、社会(世間)、メディア等での権力 〇資本主義経済、国家社会資本主義 2 罪の種類と内容は次のように規定できる。 クラ…

36.罪についての仮説(その導出)

~辺見庸の内宇宙:罪をめぐる思考~ 辺見庸の言説の幅は広い。あまりに幅広い対象と表現の多様さに読者が戸惑うほどである。 政治問題や経済問題、哲学、文学・芸術に対して造詣が深く人間洞察が鋭い。評論はかなりラディカルである。これらの点が一般的な…

35.石原吉郎について

石原吉郎は、日本の敗戦後シベリアに8年間抑留された。帰還して詩人として活躍した。キリスト者でもあった。畏友・戦友として鹿野武一がいた。 辺見庸は、その石原吉郎に重要なことを学び、もしくは確認した。 〇「個」が重要であるということ。 →人の生と死…

34.憲法改定の前に「アジア歴史会議」を

先人達の侵略戦争の罪業を不問にし、猛省することもなく、その記憶(記録も含め)の抹殺または「改ざん」をしている。「孫子の代までも謝罪の宿命を負わせない」と言っても、侵略され殺されたアジア2千万人の孫子たちは歴史の記憶を決して忘れはしない。 近…

33.SEALDs 再考

辺見庸は、なぜ「SEALDs」(自由と民主主義のための学生緊急行動 )に批判的だったのか? あんなものをデモンストレーションというのなら、私も昨年来、何度か有事法制反対の「デモ」なるものに参加し、かつてとの様変わりに驚き、砂噛む思いどころか鳥肌が立…

32.マーケティング攻勢と消費態様

消費者は、管理社会化が広範囲に進む現代社会において、見せびらかし、自己満足、射幸、不定愁訴、飢餓感、ストレス発散、癒し消費等へと走る。1970年代に唱えられた「電通:戦略十訓」に基づく露骨なマーケティングは影を潜めたものの、「浪費を作り出す人…

31.消費資本主義批判

生産能力の飛躍的な発展と資本蓄積による独占及びそれを背景にしたグローバリズムという名の侵略主義が世界経済にはびこった。生産体制の問題が問われ、その変革を試みた計画経済(実質は国家社会主義であったが)が、20世紀末に相次いで破綻すると、旧来の…

30.谷川俊太郎という「詩人」

谷川俊太郎という世渡り上手な詩人がいる。詩人というよりは詩の「商品企画・販売業者」である。 彼は自分が「かわいい」といわれて、たいへんご満悦である。そしてこう言い放つ。 「男は愛嬌・女は度胸という世界に住もうと思った(笑い)。現代詩は尊敬さ…